抗がん剤
がんを治すための薬は広く「抗がん剤」と呼ばれてきました。従来は、がん細胞だけでなく他の正常な細胞も傷害する薬ばかりでした。最近、癌細胞だけを狙い撃ちすることのできる薬が数多く開発されてきました。これらの薬は「分子標的薬」と呼ばれています。これに対して昔から使われている薬を「抗がん剤」と呼ぶことがありますが、正確には「細胞障害型抗がん剤」と呼んで区別します。
本稿では、分子標的薬と細胞障害型抗がん剤による治療を合わせて「薬物療法」と呼んでいます。
大腸癌の治療の中心は手術による切除ですが、近年の薬物の進歩に伴い、抗がん剤や分子標的薬による治療が必要となる場合が少なくありません。今回は、大腸癌の薬物療法について解説します。
大腸がんに使える薬は、大幅に増えました
近年、大腸癌に有効な薬剤が次々に使えるようになってきました。10年前にはたったの3種類しか使えなかったのが、今では10種類の薬が使えるようになりました。数年前まで、欧米で標準的に使える薬が日本の保険診療で使えないこと(Drug lug)が問題となっていましたが、最近ではほぼ解消されています。
現在、大腸がんに使われている薬剤は表1の通りです。
副作用対策も充実してきました
副作用のない抗がん剤は、残念ながらありません。分子標的薬でも程度は軽いのですが副作用があります(表2参照)。ただ、以前より副作用に対する対処方法がかなり進歩してきました。薬物療法を受けながら仕事を続けている患者さんも少なくありません。
抗がん剤だけで大腸癌を治すことはできません
大腸がんの治療は、できる限り外科的に切除するのが基本です。外科的に切除できない場合や、切除した後に再発した場合には、薬物療法が行われます。ただ、この場合、残念ながら薬で完全に治してしまうことは大変難しいのが現状です。このときの薬物療法の目的は延命・症状(痛みや呼吸苦など)の軽減・症状発現の先延ばしの3つです。進行再発がんに対する薬物療法は、これらの目的を果たすことができるかどうかをよく考えながら、行うことになります。
一方、完全に外科的に切除しても再発する可能性があります。切除の直後に、再発を予防するために行う薬物療法を「術後補助化学療法」と呼びます。この時期は、言ってみればがんを完全に治すことができる最後のチャンスで、術後1カ月以内に開始して6カ月継続します。再発を完全にゼロにすることはできませんが、その可能性を減らすことができます。
大腸癌の治療に使われる薬剤(表1)資料1
薬剤と主な副作用(表2)資料2