あまり聞かれない病名かもしれません。簡単に言えば、肛門と尾骨の間で、皮下の袋状のしこりが生じ、その中に多数の毛髪を含むという奇妙な病気です。別名、毛髪洞、毛巣洞、ジープ病ともいわれます。ジープ病というのは、この病気が、ジープを運転する米軍の若い兵士に多いことからつけられた名前です。
一般に18~30歳の毛深い白人男性に多発しますが、黒人、黄色人種にも発病します。女性にはまれにしかみられません。
多くの場合、袋は尾骨と仙骨付近の正中線上に発生して、ほとんど上方に発育します。肛門に近いものも10%ほどあります。そして内部で化膿すると皮膚に噴火し、一個または数個の穴(瘻孔)をつくります。
そのために肛門近くに穴が生じて排膿した場合は、痔瘻と見間違えることがあります。そして時々この穴から毛髪が吹き出してくることがあります。実際、毛巣瘻と痔瘻は合併しやすいようです。
尾骨上方にしこりと排膿口がある |
切除した病変の内部に毛髪が認められる |
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どうして病気がおこるのか・どんな現れ方か
この病気の原因は不明ですが、先天性説と後天性説があります。
前者では人間がつくられるときに、皮膚と神経管との分離がうまくいかなかったという神経起源説などがあります。後者では仙骨尾骨部の慢性刺激で体毛が皮膚にもぐり込んでしまったというものです。いずれにしても本症は体毛が多く、仙骨尾骨部の打撲や慢性刺激の既往をもつ人に多いという背景があります。
仙骨尾骨部の痛み、はれ、しこり、分泌物など、いわゆる化膿という症状によって近くの医師に受診し、切開排膿を受けることが多いようです。
病気を治す
感染をおこして赤くはれているときは、切開排膿だけにとどめて、炎症が治ってから根治手術をします。少し化膿しただけなら抗生物質の服用で治ります。
外科手術の方法は、腰椎麻酔のもとで、うつ伏せの体位で行います。化膿巣全体をしっかり切除したあと、傷を開放しておく方法と、完全に縫って閉鎖する方法があります。
この部位は臀部の皮膚が厚いので、傷が開いたり再発(5~7%)する可能性もあります。しかし、瘻孔の方向や深さなどをしっかり確認すれば心配ありません。
切除したしこりを瘻孔に沿って開けると、内部から膿性分泌物と毛髪の束が出てきます。この毛は日本人では黒色ですが、死んだ毛です。
病気に気づいたらどうする
毛巣瘻の予防は困難ですが、感染をおこさないように注意すれば支障はありません。少し痛み、はれが出たときは早めに医師から抗生剤の投与を受けるとよいでしょう。炎症を繰り返すなら早めに手術するとよいでしょう。
文責 松田保秀
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