どのような病気か
括約筋不全には、手術が原因でおこる術後障害と、原因不明、脊髄損傷などでおこるものがあります。本項では後者について述べます。
一つは特別な原因もなく数年前から肛門の締まりが悪くなり、下着が汚れたり、肛門がただれてかゆくなるものです(特発性)。
もう一つは、出産、脊髄外傷、脳神経疾患など、何らかの原因や誘因があって、肛門の締まりが悪くなってくるものです(症候性)。
どうして病気がおこるのか・どんな現れ方か
老人の特発性括約筋不全は、年齢とともに脊髄から肛門周辺の筋肉に入っている神経線維が萎縮したり、筋肉自体が老化するためと考えられます。また、恐怖・不安・人間関係などの精神的ストレスが原因のこともあります。
症候性括約筋不全には、出産時の直腸肛門部の拡張や、尻もちをついて腰髄・仙髄を痛めたものがあります。その他、脳卒中、痴呆、脊髄損傷、脳神経疾患によって、神経の刺激が肛門へ届かなくなっておこることもあります。
特発性括約筋不全の場合は、意識的に肛門を締めようとすると、一応は締まります。ところが、無意識の状態では肛門がゆるんでいて、便や粘液が漏れるのです。一方、症候性括約筋不全の場合、脳卒中後や、脊髄損傷の人では、括約筋の締まりがほとんどありません。
したがって便秘になりやすく、つねに直腸に便が貯留していて、いつ便がでたのか、便かガスかの感覚が鈍くなっています。
病気を治す
特発性の場合は、まず薬で便の回数を減らし、多少便を硬くして調節します。うまく行かないときは、肛門の皮下に紐をいれて、肛門を小さくする手術をします。(チールシュ法)。そして普段から、肛門を締める訓練を続けます。
症候性の場合は、原因となる病気がほとんど回復不能ですから、手術は日常生活のレベルに合わせてチールシュ法や括約筋縫合術、代替筋利用手術法などの術式を選びます。しかし、出産や外傷後の修復以外は効果が不良です。
病気に気づいたらどうする
食事によって便通を整え、すっきりでないときは下剤・浣腸で直腸を空にしてください。そして、思い出したときに肛門を「キュッ」と締める動作を繰り返します。一ヵ月やっても改善しないときは、大腸肛門の専門医に相談してください。大腸全体の内視鏡・レントゲン検査や直腸肛門内圧、筋電図などの検査を行います。
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